痛みをとる方法 鎮痛薬ー非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

福井県坂井市春江町の整体院セラピストハウスです。

 

この記事は、鎮痛薬の続きです。

鎮痛薬の1種類、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)についまとめたいと思います。

専門的な内容になりますので、興味がない方は、読み飛ばされることをおすすめします。

 

非ステロイド性抗炎症薬

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、痛みがある時や熱が出た時に服用する一般的な薬で、世界的にも最も使用頻度の高い薬剤です。アスピリン、インドメタシン、イブプロフェン、ジクロフェナクなど、さまざまなNSAIDsが出回っています。最近では解熱や鎮痛目的だけではなく、心筋梗塞や脳梗塞の予防にも使われるようになっています。NSAIDsは大変ポピュラーな薬ですが、さまざまな副作用があるので、使用には注意が必要です。

 

アスピリン

古代ギリシャの聖医ヒポクラテスは、セイヨウシロヤナギの樹皮を煎じて、熱や痛みを和らげるために使用したと言われています。古代ローマのネロ皇帝の軍医ディオスコリデスは、ローマ軍の遠征に従事し、各地で薬草とその薬効を調査研究して「マテリア・メディカ」という薬物誌を著しました。250種にも達するヤナギの中から活性成分をもつ2、3種を選別し、「セイヨウシロヤナギの葉の煎じ薬は痛風に効果がある」と記載していました。
中世には薬草売りの女性たちが、ヤナギの樹液を煎じた苦い薬を売っていました。エドマンド・ストーンはシロヤナギの抽出物に解熱効果があることを確かめ、1763年にロンドンの王位協会に「高価なキナ皮の代用薬として使用できる」と書き送っています。キナの樹皮の有効成分であるキニーネはマラリアの特効薬で、解熱作用や鎮痛作用もあります。南米のインディオは昔からアンデスの高地に生えるキナの樹皮を解熱剤として用いていました。キナがヨーロッパに入ったのは、ペルーのリマで布教活動をしていたイエズス会の修道士が1632年に船で運んだのが最初だといわれています。また、ペルー総監キンコン伯爵の夫人のマラリアがキナ皮で治ったことから、伯爵の侍医が1640年ごろにスペインにキナ皮を持ち帰ったという記録もあります。遠く南米から輸入するキナ皮はマラリアに有効でしたが、庶民にはとても手の届かない高価なものでした。そこで、キナ皮に代わるマラリア治療薬が探し求められた結果、マラリアの発生しやすい湿地帯に自生するヤナギが注目されました。ストーンは「神の恵は病のあるところに必ず治療に役立つ植物を用意してくださる」と信じて研究を続け、シロヤナギの葉から6年かけて薬効成分を分離しました。

19世紀に入り、ヨハン・ブフナーは1828年にヤナギの樹皮から苦くて黄色い樹状結晶を抽出し「サリシン」と命名しました。フランスの薬学者アンリ・ルルーは1830年にサリシン抽出の純度を上げることに成功し、ラファエレ・ピリアは1838年にサリシンから無色の結晶成分を精製し、後に「サリチル酸」と命名しました。サリチル酸はドイツの研究者により、セイヨウナツユキソウからも抽出される事が確認されました、ヘルマン・コルベは1859年にサリチル酸の構造を解明し、コールタールの合成法を確立しました。トーマス・ジョーン・マクラガンは1876年までに、100名のリウマチ熱患者さんにサリチル酸を投与して、熱と関節の炎症が治まる事を確認しました。しかし、サリチル酸には強い苦みがあり、しかも重篤な胃腸障害などの副作用があることがわかりました。

「アセチルサリチル酸」を初めて合成したのは、ドイツのフェリックス・ホフマンでした。ホフマンの父はリウマチのためにサリチル酸の強い酸性が胃を傷める原因ではないかと考え、水酸基をアセチル化して産生を弱める事を思いつき、1897年にアセチルサリチル酸の合成に成功しました。アセチルサリチル酸はチャールズ。フレデリック・フォン・ジェラールによって1853年にすでに合成されていましたが、精度が高くありませんでした。ホフマンはジェラールの方法を学んで、純粋で安定したアセチルサリチル酸の量産に成功しました。アセチルサリチル酸は世界で初めて人工合成された医薬品であり、バイエル社が1899年に「Aspirin」として商標登録して、発売しました。アスピリンには「ピリン」という語が含まれていますが、ピリン系ではありません。サリシン(salicin)やサリチル酸(salicylic acid)はセイヨウシロヤナギの学名「Salix alba」に因んだ名前でサリチル酸のドイツ名「スピールゾイレ」はセイヨウナツユキソウの学名に由来しています。しかし、アスピリンはセイヨウナツユキソウから抽出されたものではなく、合成品であるということを示すため「Spirae」の前に、否定を意味する「a」を入れて、アスピリン(aspirin)と名付けたとされています。

 

第一次世界大戦でドイツと戦った連合国ではアスピリンの供給が途絶されたため、イギリス政府はアスピリンの代替合成法をみつけた人に2万ポンドの賞金を出すと発表しました。メルボルンの若き科学者ジョージ・ニコラスはアスプロ(Aspro)を合成し、賞金を獲得しました。その後、ドイツの敗戦によりアスピリンの商標登録が連合国によって取り上げられたため、アスピリンは世界中に広まりました。1950年には売り上げの多さからギネスブックにも登場し、鎮痛薬の代名詞となっています。あまたの医薬が歴史の波に淘汰されてきた中、1世紀を超えて、なおこれだけ売れ続ける薬というのはほかに例がありません。

 

NSAIDsの薬理作用

アスピリンを代表とするNSAIDsは、リウマチ、頭痛、歯痛、外傷、術後痛、発熱などに対し、日常の医療で頻繁に用いられています。がん性疼痛には、WHOの3段階除痛ラダーのすべての段階でNSAIDsが用いられます。ホスホリバーゼA2(PLA2)によって細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が切り出され、アラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ(COX)によってプロスタグランジンG2(PGG2)に変換され、PGG2はPGH2に変換され、さらにPGH2からさまざまなPG関連物質に変換されます。ある反応が次々に起こっていくことを生物化学ではカスケード(階段状に流れる滝)反応と呼び、アラキドン酸がさまざまなプロスタグランジン(PG)関連物質に変換されていく過程は、アラキドン酸カスケードと呼ばれています。NSAIDsはCOXの活性を阻害する事によって、PGの生合成を阻害し、炎症を抑えます。イギリスのジョン・ロバート・ヴェイン、スウェーデンのベント・インゲマー・サムエルソンとスネ・カール・ベルグストロームの3人はPGを発見し、アスピリンの抗炎症作用のメカニズムを解明したことで、1982年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。NSAIDsには脳血栓や心筋梗塞の原因である血栓を防止する効果があることもわかってきています。COXは血小板に対して、血小板凝集作用や血管収縮作用を持つトロンボキサンA2(TXA2)の生成を促進させるので、NSAIDsは血栓の発現を抑制する方向に作用するのです。

 

NSAIDsが阻害するCOXには、現在3つのサブタイプ(COX-1、COX-2、COX-3)が知られています。通常の生理状態で、胃粘膜保護作用、腎臓の血流の維持、血小板凝集抑制作用などホメオスタシスに重要な役割を果たしているのは、COX-1です。COX-3は主に中枢神経系に存在するCOX-1の変種で、アセトアミノフェンによる中枢作用に関与しています。1991年に発見されたCOX-2は炎症や外傷による刺激によって誘導され、PGの産生を促進し、細動脈を拡張し、熱感や発赤を生じさせます。また、産生したPGが痛みの閾値を低下させるために、ブラジキニンなどによって引き起こされる痛みが強まります。胃潰瘍などの副作用はCOX-1の阻害によることから、COX-2だけを阻害する薬剤を開発すれば、副作用の少ない鎮痛薬となるだろうと予想されました。そこで製薬会社はこぞって、「スーパーアスピリン」と呼ばれるCOX-2阻害剤を開発し、日本でも2000年前後から使用が可能となりました。しかし薬はすべて「諸刃の剣」であり、COX-2阻害薬にも新たなる問題点が出てきました。
COX-2阻害剤には、従来のNSAIDsが持ち合わせていた血栓症の予防効果はありません。前述したように、COXは逆に、血小板凝集抑制作用や血管拡張作用を持つPGI2の生成を促進させます。COX-2阻害によってPGI2が減少すると相対的にTXA2の働きが強まり、血栓傾向が高まって、心筋梗塞を起こしやすくなると示唆されています。年間25億ドルの売り上げがあったCOX-2阻害剤の「ロフェコキシブ」を長期服用すると、心臓発作や脳卒中を増加させる可能性が予想され、製造元であるアメリカのメルク社は2004年9月に世界80か国で自主回収に踏み切りました。
NSAIDsはサリチル酸と比較すると副作用は少ないといえ、消化管粘膜障害、血液凝固障害、腎障害などの副作用があります。炎症が慢性に続くリウマチに対して、かつてはアスピリンが常用されていて、リウマチの症例の10%ぐらいに出血性潰瘍があったと言われています。特に疾患を持っていなくても日常的にアスピリンを服用する人が多いアメリカでは、年間で10万人弱が副作用の胃痛で入院し、2000人が死亡しているという報告があります。最近では、低用量のアスピリンが血栓防止の目的で処方されますが、逆に出血性合併症の問題は避けることができません。また、風邪をひいた子供がNSAIDsのジクロフェナクを服用するとライ症候群を発症し、肝障害を伴った重篤な脳障害で死に至る危険があります。アセトアミノフェンは、中枢でのPGの生合成を阻害する事で鎮痛効果と解熱効果を発揮しますが、末梢での抗炎症作用をもたないので、NSAIDsには分類されません。NSAIDsにみられる副作用もおこりにくいので、現代ではアスピリンに代わって小児の解熱剤の第1選択薬となりつつあります。妊娠初期もNSAIDsは服用しない方がよいでしょう。